―――兎に角その方はいつも洋服なのですが、その日は部屋の中に乳母車を置いて、それへ赤ちゃんを、這い出さないように巧いこと入れておられまして、わたしがあやしていましたら、済みませんけれどちょっとお願い致します、只今お茶を入れて参りますから云われて、わたしに赤ちゃんを見さして置いて、立って行ってしまわれますの。
そして暫くしましたら、紅茶を入れて、―――ついでに、赤ちゃんに上げる牛乳の中へパンをどろどろに溶かしたものを、沸かして持って来られまして、どうも有難うございました、さあどうぞお茶を一つ、云いながら、椅子に掛けたと思ったら、途端にこう、腕時計を見て、あ、これからショパンが始まりますわ、奥さんもお聴きになりません?
云われて、ラジオのスイッチを開けて、一方では音楽を聴きながら、一方ではその間も手を休めずに、牛乳を匙で掬っては赤ちゃんに飲ましておられますの。