「そしたら、お前、これ井谷さん所へ持って行ってくれるか」―――貞之助はそう云ったが、持って行ってもよいけれども、先方が、御主人の方が話が早いと云ってあなたを目指して来たのだから、これもあなたから届けてほしい、別に除け者にされたことで気を悪くしているのではないが、実のところ、私はあんな風にセカセカされたのでは話がしにくい、と幸子が云うので、ナニ、それなら訳はない、此方も事務的に運ぶことにしようと、貞之助は明くる日事務所から電話であらまし話して置いて、写真と報告書とを速達書留で井谷へ送った。
と、その明くる日の午後四時頃、今から一時間ばかりしたらお伺い致しますと云う電話があって、きっちり五時に井谷が又事務所へ現れた。
そして、昨日は早速に有難うございました、あれは直ぐ私から瀬越さんの方へお届け申しましたが、ああ云う明細な報告書と、殊にレントゲン写真までああして態〻お撮り下さいましたので、大変恐縮しておられまして、もうすっかり安心されましたのは勿論、えらい失礼な勝手なことを申し上げたことに対して、重々お詫びを申してくれと仰っしゃっておられるのでございますが、………と、云うような挨拶の後で、まことに申しかねるけれども、瀬越さんが今一度、お嬢さんと二人きりで、この間よりは少しゆっくり、まあ一時間ぐらい話し合ってみたいと云っておられるのですが、御承諾願えないでしょうか、と云うのであった。