貞之助は、今度は井谷に目指されて自分が一番交渉の矢面に立たされた関係から、この話にはだんだん乗り気になっていて、もしも亦本家が時勢後れな格式論や体面論を持ち出すようなら、自分が出かけて行って、何とか考え直すように義兄や義姉に勧めてみよう、それには、瀬越が初婚であると云うこと、見たところも実際の年齢も比較的若く、雪子と並べてもまあまあ不自然な感じが少いと云うこと、外の点では将来もっとよい縁談があるにしてからが、この二つは惜しんでも余りある点だと云うことを、力説するつもりでいたので、幸子から事情をとっくりと聴き取っても、まだ暫くは断念し切れないものがあった。
が、どう思ってみても、これは本家が承知する筈のないことだし、仮に義兄から、それならお前が責任を持つか、そう云う血統のある人と結婚させて、その夫にも、行く末生れるであろう子供にも、絶対に間違いがないと云う保証が出来るかと反問されるとしたら、貞之助にしても不安にならざるを得ない。
そう云えば、去年の春であったか、矢張四十何歳とかで初婚と云う、今度のに似た話があって、而も相当の素封家と云うので、その時は皆が乗り気になって、結納の日まで取り極めたところ、ふっと或る筋から、相手の男に深刻な関係を結んでいる婦人が附いていて、世間体を胡麻化すために妻を迎えようとしていることが分り、慌てて取り消したことがあったが、雪子へ向けて持ち込まれる縁談には、突き詰めて行くと、そう云う変に暗黒なものに打つかることが多いのであった。