現に姉の昔気質を可笑しがる幸子でさえも、電話で突然その話を聞いた時に、何かしらはっと胸を衝かれる思いがしたのは、もうあの家へも行けなくなるのかと云うことに考え及んだからであった。
その癖平生は、あんな非衛生的な日あたりの悪い家はないとか、あんな家に住んでいる姉ちゃん達の気が知れないとか、あたし達は三日もいたら頭が重くなるとか、雪子や妙子達とよくそんな蔭口をきくのであるが、でも大阪の家が全然なくなると云うことは、幸子としても生れ故郷の根拠を失ってしまうのであるから、一種云い難い淋しい心持がする道理であった。
いったい、そう云えば、本家の義兄が先祖代々の家業を止めて銀行員になってしまった時以来、地方の支店へ転任を命ぜられると云う場合も有り得べきことになったのであるから、姉がいつ何時今の家を離れるようなことが起るかも分らなかった訳であるが、迂濶なことには、姉自身も、幸子以下の妹たちも、嘗てその可能性に想到したことがなかった。