幸子は、郷土を追われて行くように感じている姉の胸のうちもいとおしく、家にも名残が惜しまれるので、見舞をかねて早速訪ねようと思いながら、差支えが出来て二三日ぐずぐずしていると、姉は又電話をかけて来て、いつ大阪へ帰って来られることか分らないけれども、さしあたりこの家へは「音やん」の家族に留守番かたがた安い家賃で住んで貰うことにした、ついては、八月と云えば間もないことだから荷物の整理もして置かなければと、近頃は毎日土蔵の中で暮しているが、父が亡くなってからこのかたの家財道具が溜っているので、何処から手をつけてよいのやら、いたずらに取り散らかした品物の山を眺めて茫然としている、きっとそれらの品物の中には、あたしには用がなくても幸子ちゃんが見れば欲しいものがあるだろうから、一度見に来てくれてはどうか、と云うような話であった。
「音やん」と云うのは金井音吉と云って、父が昔浜寺の別荘で使っていた爺やで、今では忰が嫁を貰って南海の高嶋屋に勤めてい、気楽な身の上になっているのであるが、その後も始終出入りをしていた関係から、彼の一族に跡を託すことになったのであろう。
その、二度目の電話のあった明くる日の午後に幸子は出かけたが、行ってみると、中前栽の向うに見える蔵の戸前が開いているので、