悦子も、昨日富永の叔母が見えた時はシュトルツ氏方へ遊びに行っていて、夜になってから始めて事柄を聞かされたのであったが、暫く手伝いに行くだけで直き戻って来るように話されたせいもあるかして、幸子の思っていた通り、そんなに跡を追う様子もなく済んでしまった。
出立の日は、辰雄夫婦と、十四歳を頭に六人の子供と、雪子と、九人の家族が、女中一人と子守一人を連れ、総勢十一人で、大阪駅を午後八時半発の列車に乗り込むことになった。
幸子は見送りに行くべきだけれども、自分が行けば尚更姉ちゃんが泣き出したりして見っともない光景を演じるであろうからと、わざと遠慮して、貞之助が一人で行ったが、待合室には早くから受付が出、百人近くも集った見送り人の中には先代の恩顧を受けた芸人、新町や北の新地の女将や老妓も交っていたりして、さすがに昔日の威勢はなくとも、旧い家柄を誇る一家が故郷の土地を引き払うだけのものはあった。