もう立ってから十日以上になるのに、と思っていた矢先だったので、幸子は急いで封を切ったが、用の相間に慌しく書いたらしい筆の跡を見て、姉や雪子がどんなに忙しい目に遭っているかを直ちに察しることが出来た。
麻布の種田と云うのは、義兄の直ぐ上の兄に当る人で、商工省の官吏であることは知っているけれども、幸子などは十何年も前姉の結婚式の時にたった一度会ったきりで、顔もよく覚えていないくらいなので、姉にしても恐らくそんなに度々は会っていないであろう。
義兄が先月来寄食していた関係から、取り敢えず其処に転がり込んだのであろうが、義兄は身内だからよいとして、姉や雪子は、知らぬ土地へ来て、名古屋側の親戚の、而も目上の人の家に厄介になっているのでは、どんなにか窮屈なことであろう。