幸子は又、この前電話で失敗したことを思い出して、夫に頼んで離れの書斎へ大急ぎで卓上電話を引いて貰いなどしたが、三十日の午後、行き違いに姉から端書が来て、下の子供が二人一遍に流感になり、四つになる女の児梅子の方は肺炎になりそうなので大騒ぎをしている、看護婦を雇う筈だけれども狭くて寝かすところもないし、雪子ちゃんなら本職よりも頼りになることが秀雄の時で分っているから、看護婦は止めにした、そう云う訳だから勝手ながら陣場さんにお願いして今暫く待って貰うようにしてほしい、と云って来、又追っかけて、梅子がとうとう肺炎になった旨を知らせて来た。
幸子は、これは十日や一週間では埒があきそうもないと見たので、陣場夫人に事情を云って一先ず延期を申し込んだが、先方はいつ迄でも待つと云うのであるから心配はないようなものの、何かと云うと看護婦代りに使われたりして損な役にばかり廻される雪子に、ひとしお不憫が懸るのであった。
ところで、見合いが延びた間に、かねて手配をして置いた調査の方が捗って、興信所から報告書を送って来たが、それに依ると、野村氏の地位は高等官三等で、年俸三千六百円程度、外に賞与が若干とあるから、月に割ると三百五十円前後になる。