恐らく野村氏も隣から人が出たことを知って「しまった」とは思ったであろうが、その人が誰であったか彼には分らずじまいに終り、後で何事もなかったように平気で執務していたと云う。
そんな工合で、ひとりごとと云っても一向たわいのない、罪のないことを云うのだけれども、それだけになお聞いた者は出し抜けで可笑しく感じる。
そして、ついうっかりと出てしまうのであるらしいけれども、全然無意識に洩らすのでないことは、人がいると云わないようにしているのでも明かであって、誰かに聞かれそうな心配のない時は驚くほど大声を発することがあり、たまたまそんな時に物蔭に居合せた者は、発狂したのではないかと思ってびっくりさせられる、と云うのである。