幸子は出来るだけ何気ないようにはしていたものの、トーアホテルで一回、此処へ来てから食卓に就く前に一回検べたところでは、明かに今夕家を出てから以後出血が殖えつつあって、急に体を動かしたことが原因であるに違いなく、それに、案じていた通り、背の高い堅い食堂の椅子に腰掛けているのが工合が悪く、その不愉快を怺えるのと、粗相をしてはと云う心配とで、直きに気分が塞いで来るのを、どうにも仕様がなかった。
貞之助は、考えれば考えるほど腹が立って来るのであったが、妻が一生懸命に勤めている様子がよく分るにつけ、自分が無愛想にすれば尚更彼女へ負担をかけることになるので、結局彼も、酒の勢を借りてでも会話に穴をあけないだけの努力をしなければならなかった。
「そうそう、幸子さんこれが行けるんでっしゃろ」