幸子はお彼岸の間じゅう臥たり起きたりして暮したが、或る日の朝、一遍に春らしくなった空の色に惹かれて、病室の縁側まで座布団を持ち出して日光浴をしていると、ふと、階下のテラスから芝生の方へ降りて行く雪子の姿を見つけた。
彼女は直ぐ、雪子ちゃん、―――と、呼んでみようかと思ったけれども、悦子を学校へ送り出したあとの、静かな午前中の一時を庭で憩おうとしているのだと察して、硝子戸越しに黙って見ていると、花壇の周りを一と廻りして、池の汀のライラックや小手毬の枝を検べてみたりしてから、そこへ駈けて来た鈴を抱き上げて、円く刈り込んである梔子の樹のところにしゃがんだ。
二階から見おろしているので、猫に頬ずりをするたびに襟頸の俯向くのが見えるだけで、どんな顔つきをしているものとも分らないのであるが、でも幸子には、今雪子のお腹の中にある思いがどう云うことであるのか、明かに読めるのであった。