昨日の夕方、雪姉ちゃんと元町を歩いて、スズランの店先で西洋菓子を買っていると、雪姉ちゃんが俄に慌て出して、「どうしょう、こいさん、―――来たはるねんわ」と云うのであった。
「来たはるて、誰が来たはるねん」と聞いても、「来たはるねんが、来たはるねんが」と、ソワソワしているだけなので、何のことやら分らずにいると、奥の喫茶室で珈琲を飲んでいた一人の見馴れない老紳士が、その時つかつかと雪姉ちゃんの所へ立って来て、慇懃に挨拶をして、「如何です、お差支えなかったら彼方でお茶でも差上げたいと存じますが、ちょっと十五分ばかりお附合いになって下さいませんか」と云うのであった。
雪姉ちゃんはいよいよ慌てて、真っ赧な顔をして、「あのう、―――あのう、―――」とヘドモドするばかりなので、「如何です」と、紳士は二三度そう云いながら立っていたが、とうとう断念したらしく、「や、大変失礼いたしました」と、丁寧にお辞儀をして又行ってしまった。