ええか姉ちゃん」
と、悦子は頻りにそう云っていたが、雪子を引き留めることについては、今度は一番貞之助が熱心であった。
折角今迄いて、京都の花を見ずに帰るのは雪子ちゃんも心残りであろうし、毎年の行事に大切な役者が一人欠けては不都合であるから、と、そう云うのであったが、実は貞之助は、そんなことよりも、妻がこの間の流産以来妙に感傷的になっていて、たまたま夫婦二人きりになると、胎児のことを云い出しては涙ぐむのに悩まされているので、妹たちと花見にでも行ったら少しは紛れてくれるでもあろう、と云う下心があるからなのであった。