夫婦は相談の結果、老夫人には内密にして、友人の精神科医井上教授を二人で訪い、いかに処置したらいゝかを尋ねた。
教授の意見としては、老人の病気は異常性慾と云うべきもので、目下の状態では精神病とは云えない、たゞこの患者には情慾が常に必要であって、それがこの老人の命の支えとなっていることを考えると、それに適応する取り扱いをしてあげなければいけない、颯子夫人はその点によく注意して患者をみだりに興奮させたり、患者の意に逆らったりしないようにし、つとめてやさしく看護してあげて欲しい、それが唯一の治療法であるとのこと。
依って浄吉氏夫婦は、老人の帰京に接して以来出来るだけ教授の意見に従って老人を遇していた。