敏子が借りてくれれば願ってもない仕合せであると夫人の方から話があった。
ピアノを持ち込むのなら、離れ座敷の床下に煉瓦でも敷いてネダを丈夫にし、電話も切り換えができるようにし、便所や風呂場も、夫の病室を通り抜けて行くようになっていて不便であるから、離れから直接行けるように通路をつける、それも極めて簡単に僅かな費用で取りつけられる、夫人の留守中、病人の夫に電話がかかって来ることはめったにないが、あっても一切不問に附することにきめてあるから、敏子はそんなことに一々煩わされないでよいと云う、そういう条件で、部屋代も安くするそうだから、しばらくそうさしてほしいと云うのである。
このところほとんど三日置きぐらいに木村さんが来てブランデーが始まり、クルボアジエはすでに二本目が空になり、そのたびごとに私が風呂場で倒れるので、敏子も愛憎が尽きたのであろう。