私は日記帳を茶の間の押入の用箪笥の抽出(私以外には用のない、誰も手を触れることのない抽出)の、臍の緒書だの父母の古手紙だのの重ねてある一番下に突っ込んでおいて、なるべく夫の外出の隙を狙って書くようにしているのだが、忘れないうちに書いておきたいこともあるし、急に書きたい衝動に駆られることもあるので、夫の外出を待っていられず、彼が書斎に閉じ籠っている時にも書く。
書斎はこの茶の間の真上にあるので、音は聞えて来ないけれども、夫が今何をしつつあるか、書見をしているか、書き物をしているか、彼は彼で日記をつけているか、それともボンヤリ考えごとをしているか等々のことは、おおよそ私に察知できるような気がするのだが、それは恐らく夫の方も同様であろう。
書斎はいつもシーンとして静かなのだけれども、しかし時々、夫が俄然息を詰めて階下の茶の間に注意を凝らし始めたらしく思われる、或る特別にシーンとしてしまう―――ような気がする―――瞬間がある。