とにかく私は夫が階段を下り切った時に始めて足音に心づいた。
私は食卓に靠れて書いていたのだが、慌てて日記帳と矢立(私はこういう場合に備えて硯を用いず、矢立を用いている。
それは父の遺品で、唐木で作った、中国製のものらしい骨董的価値のある矢立である)を卓の下に隠したので、現場は見られないで済んだが、帳面を慌てて隠す時に雁皮の紙を揉みくしゃにしたので、ひょっとしたら、あの紙に特有なぴらぴらした音が聞えはしなかったかと思う。
とにかく私は夫が階段を下り切った時に始めて足音に心づいた。
私は食卓に靠れて書いていたのだが、慌てて日記帳と矢立(私はこういう場合に備えて硯を用いず、矢立を用いている。
それは父の遺品で、唐木で作った、中国製のものらしい骨董的価値のある矢立である)を卓の下に隠したので、現場は見られないで済んだが、帳面を慌てて隠す時に雁皮の紙を揉みくしゃにしたので、ひょっとしたら、あの紙に特有なぴらぴらした音が聞えはしなかったかと思う。