昔、といっても今から十年ぐらい前までは、一度脳溢血に罹ると、それから二三年、もしくは七八年を経て二度目の発作に襲われる例が多く、大概な人はその時に駄目になったものであるが、近年は医術の進歩によって、そうとも限らないようになった。
一度罹ってもそれきり罹らない人もあり、二度罹ってもまた再起する人もあり、三度も四度も罹りながらなお天寿を保っている人も、しばしば見受けるようになった。
お宅の御主人は学者の方に似合わず、摂生に関しては無頓着なところがあり、ややともすると医師の忠告をお用いにならない風があったので、再発の恐れが全くないとは云えなかったけれども、こんなに早くそれが来るとは思わなかった。