故人は彼自身も云っている通り、去年までは私との閨房生活のことは努めて日記に附けないようにしていた。
彼がそのことを遠慮なく記すようになったのは、―――というよりは、ほとんどそのことばかりを記す目的をもって日記を書くようになったのは、今年の正月以来のことで、同時に私もこの正月からそれに対抗して附け始めたのであるから、まずそれ以後の彼と私とが代る代る語るところを対比して見、その間に漏れているところを補って行けば、二人がどんな風にして愛し合い、溺れ合い、欺き合い、陥れ合い、そうして遂に一方が一方に滅ぼされるに至ったかのいきさつが、ほぼ明らかになるはずで、それ以前の日記にまで溯る要はないように思う。
夫は本年一月一日の記において、私のことを「生レツキ陰性デ、秘密ヲ好ム癖ガアル」と云い、「知ッテイルヿデモ知ラナイ風ヲ装イ、心ニアルヿヲ容易ニ口ニ出サナイ」性質の女であると云っているが、これはたしかにその通りであることを否定しない。