が、同時に私も当初においては彼を熱愛していたことを、認めて貰いたいのである。
「遠い昔の新婚旅行の晩、………彼が顔から近眼の眼鏡を外したのを見ると、とたんにゾウッと身慄いがしたこと」も事実であり、「今から考えると、私は自分に最も性の合わない人を選んだらしい」ことも、時々彼に面と向ってみて、「何という理由もなしに胸がムカムカ」したことも事実であるに相違ないが、そうだからといって、私が彼を愛していなかったということにはならない。
「古風ナ京都ノ舊家ニ生レ封建的ナ空気ノ中ニ育ッタ」私は、「父母の命ずるままに漫然とこの家に嫁ぎ、夫婦とはこういうものと思」わされて来たのであるから、好むと好まないとにかかわらず、彼を愛するよりほかに術はなかった。