今述べたような工合で、私は彼女がわれわれ夫婦の閨房の情景を木村に洩らしたであろうことは、ほぼ推していた。
彼女は木村を、心密かに愛しているのであり、それゆえに「内々私に敵意を抱きつつある」ことも分っていた。
彼女は、「母は生れつき繊弱なたちで過度の房事には堪えられないのに、父が無理やりに云うことを聴かせ」ているのであると解し、その点では私の健康を気づかい、父を憎んでいたのであるが、父が妙な物好きから木村と私とを接近させ、木村も私もまたそれを拒まない風があるのを見て、父を憎むとともに私をも憎んだ。