夫に誘導されて一歩一歩堕落の淵に沈みつつあった私であるが、まだそれまでは、夫の要請黙しがたく苦痛を忍んで不倫を犯しているかのように、―――そうしてそれは舊式な道徳観から見ても、婦人の亀鑑と仰がれてもよい模範的行為であるかのように、自分を欺いていたのであったが、その時あたりから、私は全く虚偽の仮面を投げ捨ててしまった。
私はきっぱりと、自分の愛が木村の上にあって夫の上にはないことを、自ら認めるようになった。
四月十日に、「体の工合が寒心すべき状態にあるのは夫ばかりでなく、実は私も同様である」と書いているのは、深い魂胆があってのことで、ありようは、私は病気でも何でもなかった。