平中日記を見ても、その内容は必ずしも花々しい恋愛談ではなく、相手に逃げられたり、体よく捌かれたり、とゞのつまりは「物も云はでやみにけり」とか、「煩はしとて男やみにけり」とか云う風な終りを告げている挿話が随分ある。
又七条の后の宮の女房武蔵との関係のように、たま/\望みが叶ったかと思えば、その翌日から公用で四五日京都を離れるようなことになり、而も不覚にも女に事情を知らしてやるのを怠ったので、女はたよりのないのを歎いて尼になってしまったと云うような、そゝっかしい話などもある。
ところで、平中が数ある女たちの中で、一番うつゝを抜かして恋いこがれ、おまけに散々な目に遭わされて、最後には命までも落すようなことになった相手は、侍従の君、―――世に謂う本院の侍従であった。