そうこうするうち、その年の夏も過ぎ、秋も暮れて、平中の家の籬に咲いた菊の花も色香がうつろう季節になった。
此の古今に名を馳せた色好みの男は、人間の花を愛したばかりでなく、植物の花をもいつくしむ心を持っていて、わけても菊を栽培することが相当上手であったらしい。
「又此の男の家には、前栽好みて造りければ、面白き菊などいとあまたぞ植ゑたりける」とある平中日記の一段には、或る月の美しい夜に、平中の留守をうかゞって女たちがひそかに菊の花を見物に来、丈の高い花の茎に歌を結いつけて帰ることなどが記されているが、大和物語にも、仁和寺の宇多上皇―――亭子院の帝が平中をお召しになって、「御前に菊を植えたいと思うので、よい菊を献上するように」と云う仰せがあったことを記している。