「又此の男の家には、前栽好みて造りければ、面白き菊などいとあまたぞ植ゑたりける」とある平中日記の一段には、或る月の美しい夜に、平中の留守をうかゞって女たちがひそかに菊の花を見物に来、丈の高い花の茎に歌を結いつけて帰ることなどが記されているが、大和物語にも、仁和寺の宇多上皇―――亭子院の帝が平中をお召しになって、「御前に菊を植えたいと思うので、よい菊を献上するように」と云う仰せがあったことを記している。
その時院は、平中が畏まって退出するのをお呼び止めなされて、「その献上の菊の花には歌を添えて参れ。
そうでなければ受け取らないぞ」と仰せになったので、平中はひとしお畏まって退き下り、我が家の庭に咲き誇っている菊の中から優れた数株を選び取って、それに歌を添えて差上げた。