此の「君実」と云うのは本妻の意であって、何処まで本気で云っているのか分らないとしても、斯様な文句を書き送るからには、平中も此の人に対して多少とも真剣な気持があったのであろう。
彼は今、時平に突然みそかごとを発き立てられたので、うろたえた返事をしたのであるが、正直を云うと、まだ幾分か此の過去の恋人のことを忘れかねていたのであった。
浮気男のことであるから、今日迄に契った女は数を知らず、大部分はその場かぎりで捨てゝしまい、今では顔も名もおぼえていないのが多いのだけれども、此の美しい夫人とは、近頃暫く遠のいているようなものゝ、一時はたしかに並々ならぬ関係にあったのである。