いかさま、思い返して見れば、二度とあゝ云う蘭たけた人に出遇えるかどうか分らないけれども、でもゝう自分は、あの人との恋は一往叶えたのである、どう云う相手であったにしろ、その人の魅力の程は知ってしまった、その人との夢は見つくした、自分はその人にもはや全く興味がないとは云わないけれども、矢張それよりは未知の女、―――次から次へ技巧を構えて自分の情熱を煽らずには措かない人の方へこそ、遥かに強く惹き着けられるのを感じる。
―――平中はそんな気持であった。
漁色家の心理と云うものは、王朝時代の搢紳も江戸時代の通人と同じようなもので、過ぎ去った女のことに後々までこだわっているつもりはなかった。