漁色家の心理と云うものは、王朝時代の搢紳も江戸時代の通人と同じようなもので、過ぎ去った女のことに後々までこだわっているつもりはなかった。
もし左大臣が執心とあるならば、どうなと好きなようにされるもよかろう、―――と、彼はそれぐらいに思ったでもあろうし、それに又、あの大納言のような好人物の眼を偸んでそう/\不義なことをするのは、他人は知らず、彼としては何となく気が済まないところもあった。
人の女を寝取ることにかけては常習犯の彼なのであるが、あの傷々しい、骸骨のように痩せた老翁が、たま/\若い美しい妻を贏ち得て、後生大事にその人に册き、それに満足しきっているらしい様子を見ては、柄にもなく憐愍の情に似たものを感じていた訳であった。