「それでも大臣は、殿がお風邪を召さぬようにと仰っしゃって、下されましたものを、………」
低い声でしかものを云わない北の方は、耳の遠い老人に分らせることが困難なので、自然夫に対しては言葉数が少く、分けても閨に這入ってからは殆ど無言で通すので、此の夫婦の間では寝物語が交されることはめったになく、大概老人の方がひとりでしゃべりつゞけるのであった。
そして北の方はたゞうなずくか、たまに一と言か二た言、老人の耳の端へ口を寄せて、唇が耳朶へ触れるくらいにして云うのであった。
「それでも大臣は、殿がお風邪を召さぬようにと仰っしゃって、下されましたものを、………」
低い声でしかものを云わない北の方は、耳の遠い老人に分らせることが困難なので、自然夫に対しては言葉数が少く、分けても閨に這入ってからは殆ど無言で通すので、此の夫婦の間では寝物語が交されることはめったになく、大概老人の方がひとりでしゃべりつゞけるのであった。
そして北の方はたゞうなずくか、たまに一と言か二た言、老人の耳の端へ口を寄せて、唇が耳朶へ触れるくらいにして云うのであった。