こう云う時、いつも北の方は老人の節くれだった歪んだ指がわなゝきながら髪をいじくったり頬をさすったりするのを感じつゝ、おとなしく老人のするまゝになって眼を閉じているのである。
それは顔の上にさす明りの晴れがましさを避けるため、と云うよりは、老人の貪るような瞳の凝視を避けるため、と云った方が適当であるかも知れない。
八十に近い老人に斯様な熱情があることは、不思議と云えば不思議であるが、実はさしもに頑健を誇った此の老人も、一二年此のかた漸く体力が衰え始め、何よりも性生活の上に争われない證拠が見え出して来たので、それを自覚する老人は、一つには遣る瀬なさの餘り変に懊れているのでもあった。