「私をお忘れにならないで」
と、一と言云ったが、生憎なことに車の中は真っ暗で、もうその人の顔は見えず、せめて別れの言葉ぐらい聞かしてくれるかと思っているうちに、あとから乗り込んだ時平の姿で、眼の前が一杯に塞がれてしまった。
その時、―――と云うのは、北の方のあとに続いて時平が車に乗った時、下襲の尻が簾から食み出して地に垂れたのを、誰か混雑に紛れつゝ寄って来て、手に取り上げて、簾の中へ押し入れてやった者があったが、それが平中であったのに気づいた人は殆どなかった。
「私をお忘れにならないで」
と、一と言云ったが、生憎なことに車の中は真っ暗で、もうその人の顔は見えず、せめて別れの言葉ぐらい聞かしてくれるかと思っているうちに、あとから乗り込んだ時平の姿で、眼の前が一杯に塞がれてしまった。
その時、―――と云うのは、北の方のあとに続いて時平が車に乗った時、下襲の尻が簾から食み出して地に垂れたのを、誰か混雑に紛れつゝ寄って来て、手に取り上げて、簾の中へ押し入れてやった者があったが、それが平中であったのに気づいた人は殆どなかった。