あの人は何処へ行ったのか。
―――国経はそう考えると、何か奇怪な幻影のようなものが頭の隅にこびりついていて、それが少しずつ髣髴とよみがえって来、朝の光が次第に明るさを増すのにつれて、その幻影もいよ/\あざやかな輪郭を取って浮かび上って来るのを覚えた。
彼は何とかしてその幻影を、酔餘の揚句に見た一場の悪夢である、と云う風に思い做そうとしてみたが、昨日の夕方からの出来事の記憶を、一つ/\気を落ち着けてじっくりと呼び返しつゝ吟味してみると、どうやらそれは夢ではなくて事実であるらしいことが、否み難くなって来るのであった。