自分がどんなにその人を大切にし、いつくしんだにしたところで、妻は内心迷惑こそすれ、決して有難いとは感じていまい。
妻は此方が何を問うてもはっきり答えない人なので、お腹の中は知るよしもないが、ひょっとすると、此の老翁が早く死んでさえくれたらと、いつまでも長寿を保っている夫を恨み、その存在を呪っているのではなかろうか。
………自分はそれに気が付くにつれ、もし適当な相手があって、此の気の毒な、いとしい人を、今の不幸な境涯から救い上げ、真に仕合わせにしてやることが出来るのであるなら、進んでその人に彼女を譲ってやってもよい、いや、譲るべきが至当である、と思うようになったのであった。