あの晩、平中は虫が知らすと云うのか、今に何かゞ起るのではないかと云う豫覚があって、最初から憂鬱になっていた。
彼は左大臣が自分を此の席に加えたことを、必ず訳がありそうに感じていたが、宴が始まると非常な速力で酒が進行し、左大臣や取巻き連中が寄ってたかって老翁を酔わせるようにしたり、左大臣が一方ではあの御簾の方へ頻々と色目を使い、一方では平中を掴まえて変な皮肉を浴びせたりしたので、一層不安が募ったのであった。
彼は時平が腕白小僧のように眼を光らして、泥酔した顔を火照らし、喚き、唄い、笑うのを見ると、いよ/\何か大きな危険が御簾の中の人の上に迫りつゝあるように思え、それにつれてだん/\昔の愛情が、昔と同じ強さを以て蘇生って来るのを覚えた。