彼は時平が腕白小僧のように眼を光らして、泥酔した顔を火照らし、喚き、唄い、笑うのを見ると、いよ/\何か大きな危険が御簾の中の人の上に迫りつゝあるように思え、それにつれてだん/\昔の愛情が、昔と同じ強さを以て蘇生って来るのを覚えた。
そして時平が簾中に闖入した時は、座に堪えられず慌てゝ席を外したのであったが、やがてその人が車に乗せられて連れて行かれようとするけはいに、又じっとしていられないで、車の際へ走り寄って、夢中であの歌を投げ込んだのであった。
その夜平中は、再び警固の人数に加わって車の跡に附き随い、左大臣の邸まで供をして行って、そこからひとりとぼ/\と深夜の街を家路に就いたが、その途々も、一歩は一歩毎に恋しさが増して行った。