その夜平中は、再び警固の人数に加わって車の跡に附き随い、左大臣の邸まで供をして行って、そこからひとりとぼ/\と深夜の街を家路に就いたが、その途々も、一歩は一歩毎に恋しさが増して行った。
行列が本院の館に着いて、その人が車から下りる時に、せめて一と眼逢えもしようかと願っていたのに、とう/\その望みも空しく終り、もはや永久に隔絶し去ったことを思うと、更にその人を愛惜する念が燃え上って来るのであった。
自分はあの人をまだこんなにも恋していたのか、あの人へ寄せる熱情が、どうしてこんなにも消えずにいたのかと、彼は自分を訝しまずにはいられなかったが、蓋し平中の思慕の情は、夫人が彼の及び難い高根の花になったと云う事実に依って、挑発されたところもあろう。