そこで尊意は、おん歎きの次第は御尤もであるけれども、古えより賢人が小人のために禍を蒙った例は珍しからず、貴下御一人に限った運命ではないのであるし、凡そ世の中は無道なものなのであるから、左様にお恨みなさるのは浅ましゅう存ずる、どうかそのようなお考は思い止って戴きたい、だが、そう云っても貴下と愚僧とは年来のよしみも深いことなので、折角のお頼みとあるなら、たとい眼を抜かれてもお言葉に従って、宣旨を御請けしないことに致しましょう、但し天下は皆王土であり、愚僧も王民の一人である上は、もしお召しの宣旨が数度に及んだら、二度まではお断り申上げるけれども、三度目にはお請けしなければなりますまい、と、そう答えると、丞相の霊が忽ち顔色を変じて凄じい形相になった。
尊意が、咽喉が渇いておいでゞしょうと云って柘榴をすゝめたのを、丞相は取って口に啣んでひしひしと噛み砕き、妻戸のふちに吐きかけたかと思うと、見る/\一条の火焔となって燃え上ったが、尊意が灑水の印を結ぶと、たちどころにその火が消えた。
それから間もなく洛中の空に黒雲が蔽い廣がって大雷雨が襲来し、風を起し雹を降らして、宮中の此処彼処に落雷した。