彼は自分の身に取っても、父の国経に取っても、一生涯の大事件であったあの夜のこと、―――母が本院の大臣に連れて行かれた夜のことについては、何もおぼえていないのであって、たゞいつからか、母がもう自分の家にいないようになったことを、誰かに聞かされて、急に大変悲しくなって泣いたのであった。
彼にその話をしてくれたのは、多分老女の讃岐であったか、乳人の衛門であったか、孰方かであろう。
その時分、彼は夜な/\乳人に抱かれて眠ったのであったが、乳人は彼がいつ迄も母の名を呼んで泣き止まないのに当惑して、
彼は自分の身に取っても、父の国経に取っても、一生涯の大事件であったあの夜のこと、―――母が本院の大臣に連れて行かれた夜のことについては、何もおぼえていないのであって、たゞいつからか、母がもう自分の家にいないようになったことを、誰かに聞かされて、急に大変悲しくなって泣いたのであった。
彼にその話をしてくれたのは、多分老女の讃岐であったか、乳人の衛門であったか、孰方かであろう。
その時分、彼は夜な/\乳人に抱かれて眠ったのであったが、乳人は彼がいつ迄も母の名を呼んで泣き止まないのに当惑して、