母がそうして顔を押しつけていたのは、どのくらいの時間であったか、その間母は泣いていたのか、考えごとをしていたのか、等々のことも滋幹には思い出せないのであるが、やがて母は女房に半挿を持って来させて、滋幹の腕にある文字を拭った。
女房が拭い取ろうとするのを制して、母が自分で拭ったのであったが、拭い取る時にいかにも惜しそうに、一字々々、頭へ刻みつけるように視すえつゝ消した。
それから母は、さっき平中がしたように我が子の袂をまくり上げて、左の手で彼の手を握り、前の文字を消したあとへ、前と同じくらいの長さに文字を走らした。