滋幹はその時ほんとうに久振に父を見かけたのであったが、そうして石に憩うている父の恰好には、長い道中を歩いて来て、くたびれ切って道ばたに休んでいる旅人のようなところがあった。
衣服などもひどく垢づいて、よれ/\になっていて、袂や裾が綻びたりちぎれたりしていたのは、もうその時分、身の周りの世話をする女房などがいなくなっていたのか、いてもそう云う女たちに手を触れさせることを厭ったのであろう。
滋幹は、少しく傾きかけた日があか/\と父の半身を照らして、痩せ衰えた頬がつやゝかにかゞやいているのを見ながら、それでも敢て近寄ろうとはせず、五六歩離れて彳んでいると、父が小声で何かぶつ/\呟いているのが聞えた。