滋幹は、少しく傾きかけた日があか/\と父の半身を照らして、痩せ衰えた頬がつやゝかにかゞやいているのを見ながら、それでも敢て近寄ろうとはせず、五六歩離れて彳んでいると、父が小声で何かぶつ/\呟いているのが聞えた。
その、呟いているものが、普通の言葉ではなくて、何かの文句に節をつけて、口のうちで暗誦しているのであるらしいことは察しられたが、滋幹が傍で聞いているのには全く気が付かないかのように、何となく水の面へ眼を落して、同じ文句を二三遍も繰り返していたかと思うと、
「和子」
滋幹は、少しく傾きかけた日があか/\と父の半身を照らして、痩せ衰えた頬がつやゝかにかゞやいているのを見ながら、それでも敢て近寄ろうとはせず、五六歩離れて彳んでいると、父が小声で何かぶつ/\呟いているのが聞えた。
その、呟いているものが、普通の言葉ではなくて、何かの文句に節をつけて、口のうちで暗誦しているのであるらしいことは察しられたが、滋幹が傍で聞いているのには全く気が付かないかのように、何となく水の面へ眼を落して、同じ文句を二三遍も繰り返していたかと思うと、
「和子」