父はそれらの句を、悄然として庭の片隅に彳みながらこっそり吟誦していることもあり、人を遠ざけて独りで酒杯を挙げながら、感極まった声を放って泣いて謡っていることもあったが、そんな折には父の両頬に涙が縷々と糸を引いていた。
その時分、讃岐はいつからか館にいないようになっていたのであるが、思うに彼女は母が逃げ去ると間もなく、自分も父を見限って母の方へ身を寄せたのではあるまいか。
滋幹の記憶する限りでは、乳人の衛門が滋幹のことも父のことも、何くれとなく面倒を見てくれていた。
父はそれらの句を、悄然として庭の片隅に彳みながらこっそり吟誦していることもあり、人を遠ざけて独りで酒杯を挙げながら、感極まった声を放って泣いて謡っていることもあったが、そんな折には父の両頬に涙が縷々と糸を引いていた。
その時分、讃岐はいつからか館にいないようになっていたのであるが、思うに彼女は母が逃げ去ると間もなく、自分も父を見限って母の方へ身を寄せたのではあるまいか。
滋幹の記憶する限りでは、乳人の衛門が滋幹のことも父のことも、何くれとなく面倒を見てくれていた。