そのうちに、家が一軒もなくなって、見渡す限りぼう/\と草の生えた中に、細い野道がひとすじうねっている所へ出た。
一本道であるけれども彼方へ曲り此方へ曲りしている上に、草が人間の背よりも高く、父の姿がとき/″\それに没してしまうので、今度は滋幹は一二間の距離まで近寄って行ったが、両側から路の方へ蔽いかぶさっている草を掻き分けながら行くので、袂も裾もしたゝか露に濡れて、つめたい雫が襟もとまで沁み入るのであった。
父は、小川に橋のかゝった所へ来ると、それを渡って、なお真っ直ぐにつゞいている路の方へは行かないで、川のふちへ降りて、少しばかり河原のようになっている砂地を、川下の方へ歩き出した。