滋幹は、父が彼にやさしく話しかけてくれた記憶を一度も持たない訳ではないが、それは必ず母のことが話題になっていた時に限り、そうでない時の父と云うものは、凡そ子に対して冷淡な人でしかなかった。
だが又滋幹は、子を顧みる暇のないほど、母のことで頭が一杯になっていた父であると思うと、その冷淡を少しも恨む気になれず、寧ろそうであってくれたことを嬉しくさえ感じるのであるが、何にしても、あの夜のことがあってからの父は、いよ/\子に対して冷淡になり、滋幹のことなど全く念頭にないように見えた。
云って見れば、いつでもじっと眼の前にある虚空の一点を視詰めたきりの人のようであった。