此のあたりは山に近い上に木立が深いので日が遠く、まして黄昏時なので、冷え/\とした空気が身に沁むのであったが、去年の落葉の積っているのを掻き分けながら、母屋と覚しい建物の所まで行って見ると、そこも今は廃屋になっているらしく、格子が固く鎖してあって、夕ぐれであるのに一点の灯も洩れてはいない。
階に腰をおろして疲れを休めていた滋幹は、妻戸の蝶番が損じて扉が一枚外れかゝっているのに気がつき、床に上って中を覗いて見たけれども、内部は真っ暗で、黴臭い湿気の匂がするばかりである。
滋幹は、以前は誰の住まいであったのかしらんと思い、或はこゝが亡き中納言の山荘ではなかったろうか、と云うことに心づいた。