これから銀座へでも行って、この間からせびられていた妻の手套と肩掛とを買って、―――あのハイカラな彼女の顔に似合うようなどっしりした毛皮の奴を買って、―――そうして早く家へ帰って彼女を喜ばせてやろう、―――そんなことを思いながら歩いている矢先だったのである。
彼はこの安藤と云う見ず知らずの人間のために、突然楽しい空想を破られたばかりでなく、今夜の折角の幸福にひびを入れられたような気がした。
それはいいとしても、人が散歩好きのことを知っていて、会社から追っ駈けて来るなんて、何ぼ探偵でも厭な奴だ、どうしてこの男は己の顔を知っていたんだろう、そう考えると不愉快だった。