かつて佐藤春夫が云ったことに聾者は愚人のように見え盲人は賢者のように見えるという説があった。
なぜならつんぼは人の云うことを聴こうとして眉をしかめ眼や口を開け首を傾けたり仰向けたりするので何となく間の抜けたところがあるしかるに盲人はしずかに端坐して首をうつ向け、瞑目沈思するかのごとき様子をするからいかにも考え深そうに見えるというのであって果して一般に当て篏まるかどうか分らないがそれは一つには仏菩薩の眼、慈眼視衆生という慈眼なるものは半眼に閉じた眼であるからそれを見馴れているわれわれは開いた眼よりも閉じた眼の方に慈悲や有難みを覚えある場合には畏れを抱くのであろうか。
されば春琴女の閉じた眼瞼にもそれが取り分け優しい女人であるせいか古い絵像の観世音を拝んだようなほのかな慈悲を感ずるのである。