聞くところによると春琴女の写真は後にも先にもこれ一枚しかないのであるという彼女が幼少の頃はまだ写真術が輸入されておらずまたこの写真を撮った同じ年に偶然ある災難が起りそれより後は決して写真などを写さなかったはずであるから、われわれはこの朦朧たる一枚の映像をたよりに彼女の風貌を想見するより仕方がない。
読者は上述の説明を読んでどういう風な面立ちを浮かべられたか恐らく物足りないぼんやりしたものを心に描かれたであろうが、仮りに実際の写真を見られても格別これ以上にはっきり分るということはなかろうあるいは写真の方が読者の空想されるものよりもっとぼやけているでもあろう。
考えてみると彼女がこの写真をうつした年すなわち春琴女が三十七歳のおりに検校もまた盲人になったのであって、検校がこの世で最後に見た彼女の姿はこの映像に近いものであったかと思われる。