いったい新参の少年の身をもって大切なお嬢様の手曳きを命ぜられたというのは変なようだが始めは佐助に限っていたのではなく女中が附いて行くこともあり外の小僧や若僧が供をすることもありいろいろであったのをある時春琴が「佐助どんにしてほしい」といったのでそれから佐助の役に極まったそれは佐助が十四歳になってからである。
彼は無上の光栄に感激しながらいつも春琴の小さな掌を己れの掌の中に収めて十丁の道のりを春松検校の家に行き稽古の済むのを待って再び連れて戻るのであったが途中春琴はめったに口を利いたことがなく、佐助もお嬢様が話しかけて来ない限りは黙々としてただ過ちのないように気を配った。
春琴は「何でこいさんは佐助どんがええお云いでしたんでっか」と尋ねる者があった時「誰よりもおとなしゅうていらんこと云えへんよって」と答えたのであった。