しかし当初は、父祖の業を継ぐ目的で丁稚奉公に住み込んだ身の将来これを本職にしようという覚悟も自信もあったのではなかったただ春琴に忠実である余り彼女の好むところのものを己れも好むようになりそれが昂じた結果であり音曲をもって彼女の愛を得る手段に供しようなどの心すらもなかったことは、彼女にさえ極力秘していた一事をもって明かである。
佐助は五六人の手代や丁稚共と立つと頭がつかえるような低い狭い部屋へ寝るので彼等の眠りを妨げぬことを条件として内証にしておいてくれるように頼んだ。
幾ら眠っても寝足りない年頃の奉公人共は床に這入るとたちまちぐっすり寝入ってしまうから苦情をいう者はいなかったけれども佐助は皆が熟睡するのを待って起き上り布団を出したあとの押入の中で稽古をした。